十九時、駅前
「ここ」
 
そのマンションは新築みたいにきれいで、
立派で。

……嘘ですよね?

「入らないのか?」
 
荷物の大部分を手に、
片桐課長はすでに玄関のロックを解除している。

……というか。
その手に当たり前のようにある、
合い鍵はなんですか?

「なんで、
片桐課長が合い鍵持ってるんですか!?」

「なんかあったときのためだろ」
 
エレベーターに乗って聞くと、
ニヤニヤ笑いながらそう返ってきた。
……絶対違うと思う。
もう、嫌な予感しかしない。

四階で降り、聞いた通りの角部屋の鍵を、
片桐課長は開けた。
中は、思ってた以上に広くてきれいで、
血の気が引いた。
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