十九時、駅前
荷物を持って、
片桐課長と一緒にマンションを出る。
車に乗って、またため息。

「……ため息つくと、倖せが逃げるぞ」

「……誰がつかせているんですか」

「…………。
明日、どうする?迎えに行くか?」
 
僅かな沈黙のあと、
片桐課長は話題を変えてきた。

……少しは自覚、あるんですね。

「両親が部屋をみたいから一緒に……って!
どうするんですか、あの部屋!?
あんなの、みられたら……」

「そうだなー。
それはそれでいいんじゃないか?」

「よくない、です!」

片桐課長はおかしそうにくつくつ笑ってる。

……って!人ごとですか!?

「家具家電、一式ついてたことにしとけ。
元々あそこ、新婚夫婦向けだしな。
たまたま知り合いでそこが安く借りられたんだ、
問題ないだろ」

「それで納得してもらえるとは思えません……」

「ま、俺もいるから、ちゃんといってやる」

「……はぁーっ」

「またため息。ため息禁止、な」

「なら、ため息つかせるようなこと、
いわないでください」
 
くつくつ笑う片桐課長に。
禁止されたばかりのため息が盛大に漏れた。
 
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