十九時、駅前
……結局。
うちの両親はみたことないほどの爽やかな笑顔で
片桐課長がいったことに、素直に納得した。

……いいのかな、ほんとに?

そしていま。
私は人生最大っていえるんじゃないか、
って問題に直面している。

「私はソファーで寝ますから……」

「なにいってるんだ。
あんなでかいベッドに俺ひとりとか、
なにかの罰ゲームか?」
 
私の手を掴むと寝室に引き入れ、
ベッドへと突き飛ばした。

「同じベッドに、
それなりの歳の男女がいるんだ。
やること、わかるだろ?」
 
枕を抱きかかえてベッドの隅に逃げた私に、
片桐課長が迫ってくる。

……ええ確かに。
私ももう、そうじゃないし。
いってる意味はわかりますよ?

「でも……」

「いや、か?」
 
しゅん。

捨てられた、子犬の顔。

……あの顔されたら。

私の体は意思とは関係なく、
首を横に振っていた。

「なら……」

片桐課長の唇が重なる。

……あ。どうしよう。
凄く、気持ちいい。

思いもしなかった優しいキスに目を閉じて
……私は、付き合ってもない人と……。
 
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