十九時、駅前
豆腐なもんだから賞味期限は短いし、
量も半端ないし。
私は冷凍して使う技を知ってたので
なんとかなったけど。
泣く泣く捨てた人もいるって話。

「それでさー」
 
それできっかけを掴んだのか、
そのまま片桐課長の愚痴が始まった。

……共通の話題がそれしかないのはわかる。
わかる、けど。
……愚痴を聞かされるのは結構苦痛。

「……って。
こんな話を聞かされるのは退屈、か?」
 
ええ、もう。

そう思っていたはずなのに、
しゅんとした、まるで捨てられた子犬のような、
片桐課長の顔に、
体が勝手に首を横に振っていた。

「よかった」
 
片桐課長が、笑う。
それはもう、眩しいくらいの笑顔で。

というか、こんな片桐課長は初めてで、
何故か心臓が大きく跳ねた。
 
お店を出ると九時少し前だった。
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