十九時、駅前
ロックのかかった携帯電話は、
まるで私に見せない片桐課長の心のようで、
悲しくなった。
 

どんよりと重い心を抱えて会社に行く。
なるべく考えないようにしていても、
つい主のいない席をみてしまう。

午後、パソコンに向かっていたら
視界の隅にスーツの袖。
顔を上げると片桐課長の後ろ姿。
机の上には折りたたまれたメモ。
そっと、いつものように机の下で広げてみる。

『笹岡へ
 十分後、屋上
     片桐』
 
たぶん、携帯のことだろうな。

キリのいいところまで仕事をし、
更衣室に寄って
片桐課長の携帯をポケットに忍ばせる。
屋上に行くと、
珍しく片桐課長はまだきてなかった。

なんとなく、
中を見ようとしたことに罪悪感を覚えつつ、
片桐課長を待つ。
空は今日の私の心と同じで、どんよりと曇り空。
余計に憂鬱になる。

「悪い、待たせた」
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