十九時、駅前
「……いえ。携帯、ですよね」
 
携帯を差し出すと、
片桐課長は何故か顔を曇らせた。

「どうした?なにかあったのか?」

「どうしてですか?」

「……泣きそうな顔、してる」
 
片桐課長の手が、私を抱き寄せる。

……だけど私は。

それを拒否していた。

「離して、ください」
 
ぽつ、ぽつ。足下に、水滴。

「なんで」
 
ぽつ、ぽつ、ぽつ。

「……わからないんです」

「笹岡?」
 
ぽつぽつ、ぽつぽつ。

「わからないんです!もう全部!」
 
ザーッ。
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