ウサギの王子に見初められ。

言ったらだめだよ、三上くん

今年の9月は散々だった。仕事で大きなミスをした挙句、なんの役にも立てずに先に帰らされるという大失態をおかした。

配属2年目でまだまだひよっこ扱いだからとはいえ、やっぱりみそっかす状態の今のままではいけないよね。なんとかしたいと最近ずっと考えてる。

でも、私と一緒にミスの責任をかぶってくれた先輩の香さんは、

「愛されてるってことだよね、真奈も私も、周りにね」

とにこやかにまとめている。

大勢の人が何日も残業して対処するような大きなミスだったのに、確かにほとんどお咎めを受けなかった。愛されてるから、なの？

「そうなんでしょうか、香さん。愛たるものがなんなのか、未熟者の植木真奈、まだよくわかりません」

そう言ったら、香さんはおかしそうに笑った。

「真奈ってほんと面白いよね。おとなしそうだと思ってたのに、猫かぶってたんだね」

「かぶってないですよ。単に人見知りなんです」

「そっか。私、素が出てからの真奈のほうが好き」

と屈託なく笑ってくれる。



香さんはいつも綺麗だけど、恋をしてますます輝いている。いいなあ。私もきれいになれるような恋をしてみたい。

香さんのお相手は、社内随一のイケメン平内さん。

私もおこがましくも３つ先輩の平内さんに横恋慕をしており、「告白するから応援してください」なんて言って人のいい香さんを妨害しちゃってた。



そんな自分に嫌気がさしたりもして、やっと勇気出せてちゃんと好きですって告白して砕け散ったのも9月頭の出来事。

罪滅ぼしにと香さんと平内さんが素直になれるようにお膳立てをして、なんだか2人に感謝されて今に至る。

邪魔しただけだったのにね。嫌われてもいいはずなのに、なんだか前よりお二人と仲良くさせてもらってる。

これも愛されてるってことなのかなぁ。

とにかくこの職場は居心地がよく、まだ2年目だけどできれば役に立つ仕事をして長年みなさんと働きたい、と私は思ってる。