ウサギの王子に見初められ。

また連絡するねと言われた手前、なんとなくこっちからしちゃいけないかなと思いつつ、もしかして会社帰りに会うことになるかもと、パーカーを会社に持ってきてある。


やめておけばよかったなぁ、と机の下の紙袋を脚で触っちゃったときに思った。

置きっぱなしもおかしいし、週末は持って帰ろうかなと考えていた木曜の午後、三上くんから連絡が来た。今日早く帰れそうなんだけど、ご飯食べないかって。仕事中だから、飲み物を買いに行ったついでに簡単にOKの返事だけして戻る。

途中で武田さんにつかまって、「お前なんか余裕ありそうだから仕事増やすか」と恐ろしいことを言われて逃げ帰った。



「真奈、なんか楽しそうだね」

終業時間間際に、隣の席の香さんに声を掛けられた。あれ、なにか顔に出ちゃってた?

だってさ、週末持ってかえるのもばかばかしいし、今日会って渡せたら持ってきておいた甲斐もあると思って。と香さんにわかるわけない言い訳が頭の中で浮かぶ。

「なんかいいことあった?」

「え、そうですか?」

「もしかして、あれかな。三上関係か」

「え? は? 三上くん?」

思わず裏返った声が出た。なに? 鋭くないですか、香さん。

「三上の抜けた穴が大きくて大変だったんでしょ、あっちのチーム。真奈が皆の負担軽くしてくれてようやく回り始めたとか武田が褒めてたよ」

「あ、はい。まぁそんなところです」

「なんかあったら相談してね。私あまり頼りにならないと思うけど」

最近いい感じに力が抜けている香さんが冗談ぽく笑って言う。仕事の話だったか。そうだよね、業務中だよ、今。もう、私もしっかりしないと。



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