ウサギの王子に見初められ。

4階まで何とか階段を上がるのを見届け、鍵を開けてあげてベッドまで連れていき、上着を脱がせた。キッチンの電気だけつけて、お水を入れて座っている三上くんに渡す。

ごくごく飲んでいる姿を見ていたら、急にハッとしたように目を上げた。

「真奈ちゃん?」

「うん」

「え? あれ? もしかしてついてきてくれた?」

「うん。大丈夫? 今目が覚めた感じ? ずっとぼーっとしてたよ?」

驚いた。歩きながら寝てたみたいな感じなのかな。




三上くんはぶるぶるっと頭を左右に振って「ごめん。オレ、なんか変なこと言ってなかった?」と心配そうに聞く。

「ううん。全然。しゃべらないでフラフラ歩いてた」

「そっか、よかった。ごめんね、ちょっと飲みすぎた」

「飲まされちゃった? 沢田さん達に囲まれてたって」

「沢田さん? ああ、うん。飲まされたわけじゃないんだけどさ……」

何かあったのかな。三上くんはまた黙ってしまった。

「あの、大丈夫? コーヒーとかいれようか?」

聞いてみたけど、もしかして帰ったほうがいいのかな。でも返事がないから、ポットのお湯でインスタントコーヒーを入れてみた。




座ったままコーヒーを飲み終わった三上くんは、だいぶはっきりしてきたようだった。弱いけど早くアルコールが抜ける、そういうタイプだったかもしれない。

「真奈ちゃん、上野さんに会ったの?」

唐突に聞かれた。あ、沢田さんから話が行ったんだ。

「うん。でも、沢田さんの代わりに呼ばれたというか、ちょっと飲みに行っただけだけど」

「また二人で会う約束したって、ほんと?」

座ったまま上目遣いで聞かれてドキッとした。悪いほうの意味で。




どうしよう、やっぱりそういう風に受け取られるんだ。どうしよう、三上くんにあっちにもこっちにもいい顔してるって思われてる。

冷や汗が出て、すーっと頭から血が引いていく感じがする。これは、あれだ。やっぱりマネージャーみたいなことしたから。

よくわからないうちに誤解されるような言動をしちゃってるんだ、また。

何も言えなくて立ち尽くしてた。

きっと、責められる。怒られる。

『だったら勘違いさせるようなことするなよ』

『気を持たせるようなこと言っといてなんだよ』

昔言われた言葉が頭によみがえる。

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