1ヶ月の(仮)夫婦
「……」
「……」
どれくらいそうしていたのか、
斗麻さんの咳払いでやっと自分がどういう状態になっているか理解できた。
「あー、お二人とも、俺のこと忘れてないかな」
「「……!!」」
お互い、ばっと離れる
自分の顔があり得ないくらい熱い。
離れてしまったことに寂しさを感じてしまう自分が信じられなかった。
「……すみません」
さっきのように申し訳なさそうに謝る壱麻さんの耳が赤いのは気のせいだろうか。
「…ぁ…いえ」
気まずい、いや、そもそもなんでこんな気まずくなったのでしょうか?
っていうか、私、なんで顔赤いんだよ…
あれほど止まらなかった涙がいつの間にか引っ込んでしまった。
「やれやれ堪え性のない子め」
聞こえなかったが斗麻さんが小さい溜め息とともに呟いて、苦笑しながら私に言った
「話してくれてありがとう……つらかったね」
「いえ……」
斗麻さんは同情ではなく、本当に労るように言った。初めてのことに動揺してしまう。
「……よし、じゃあ、次の本題に入るね」
「?」
「さっそくだけど、杏子ちゃんは壱麻と結婚してくれないかな?」
「えっ」
と言ったのは私ではなく、壱麻さんだ。
「兄さん…」
「壱麻は黙って、初めに言ったように、これは君を救うためにすることだからね 」
「はぁ」
「つまりね、君をうちの会社で雇う、君は家が見つかるまで会社の寮に住めばいい、
"月女"であることを隠してね」
「え、そんな事……」
「できるよ、俺は社長だからね あ、ちなみに壱麻は社長秘書」
にっと笑う、いたずらっ子のように。
「鬼塚グループ、知ってるよね」
「はい」
知ってる、知らない人などいるわけがない
それくらい、有名な企業だ。
「今、俺達兄弟が鬼塚グループの実権を握ってる、つまり、君をうちの社員にするのは簡単なんだよ」
ま、面倒くさいのは壱麻に任せてるけど……
そう言って苦笑しながら私をまっすぐ見て
斗麻さんは続けた。
「でも、いきなりそれをやっちゃうと、君を怪しむものが出てきてしまう……うちは何かと敵が多いんだ」
斗麻さんの言うことは分かる、いきなり社長指名で入社してきた小娘なんてみんな怪しむに決まってる。