1ヶ月の(仮)夫婦
(仮)夫婦の誕生
「しゃ、社長!な、どうしたんですか」
ばっと振り向き、いきなり部屋に入ってきた人物に向かって彼はほぼ叫びに近い声で言った。………社長?
「今は社長じゃないって何回言ったら分かるのかな、壱麻は……」
やれやれ、と肩をすくめる社長という人物は、彼と同じ黒髪で顔も少し似ている感じがした。
「どうしたって?それは……」
またちらりと私を見る、そして、私を安心させるように微笑み
「壱麻に泣かされたその子を助けにきたんだよ」
「なっ」
「ごめんね、うちの弟が、馬鹿だから許してやって」
「ちょっ、兄さん!」
「兄さん…?」
聞こえた言葉に疑問を抱く、兄さん…ということは
「あぁ、俺たち兄弟なんだよ、自己紹介が遅れたね 俺は壱麻の兄の鬼塚 斗麻 (とうま)、斗麻でいいよ」
兄弟、と言われて納得した。二人は雰囲気は違うが、顔立ちはよく似ている。
壱麻さんは物静かな雰囲気だが、反対に 斗麻さんは明るい雰囲気。
そんな事を思っていると、斗麻さんは急に真面目な顔つきになった。
「さて、本題に入るね 本当は壱麻にやって貰うつもりだったけど……しょうがない」
「本題?」
「うん、あぁ大丈夫、別に君を傷つけるつもりはないんだよ、俺は壱麻とちがって女の子に優しいから」
「兄さん…」
「さてさて、馬鹿はほっとくとして……さっそく本題だけどね 聞かせて欲しいんだ 俺たちに」
「……何をですか?」
「君の全て、かな」
「全て?」
「そう、"月女家"について全て 俺たちに聞かして欲しい、それから……君が、"月女 杏子"があのあと どのようにして生きてきたのかを」
「ぇ……」
「最初に言ったけど俺たちは君を傷つけるつもりはない、逆にいうなら俺たちは君を救いたいんだよ」