イジメ返し2 ~恐怖の復讐劇~
「――お母さん、入るよ……?」
時計の針は午後10時を差している。
母の部屋の扉をノックしてからそっとドアノブに手をかける。
開いたカーテンの隙間から差し込む月夜の明かりで部屋の中がぼんやりと浮かべあがる。
真っ暗で静まりかえった部屋の中の真ん中で母は背中を向けて正座していた。
唇が震えてうまく言葉にならない。
「で、電気つけるね……?おばあちゃん、もう寝たから」
「……そう」
覇気のない母の声にジリジリと焦りを感じる。
今のように落ち着いた雰囲気の時こそ、母はうっぷんをため込んでいることが多い。
電気のスイッチを入れると、部屋の中がパアッと明るくなった。
「みやび、こっちにきて座りなさい」
「……はい」
母に従い、畳の床に正座する。
これから先、何をされるのかは容易に想像がつく。
「今日、どうして電話にでなかったの?」
「ご、ごめんなさい……。気付かなくて」
「気付かなかったことはないでしょう?お母さん、何度も何度も何度も電話したんだから!!」
母の怒りのスイッチが入った。
目の色の変わった母を見て、背中を丸める。
「お母さんだってね、こんなことしたくないのよ。でも、みやびが悪いから。悪い子にはお仕置きが必要なのよ」
あたしは黙って頷くと、Yシャツを脱ぎ、下着姿になった。
「ごめんなさい、お母さん」
今朝つねられた部分の右のわき腹はいまだにミミズ腫れになっている。
母は躊躇なくその部分をつねった。
「……っ……。痛い……」
顔を真っ赤にして奥歯を噛みしめて痛みに耐える。
「痛い?何を言ってるの?誰が悪いの?そのせいで、誰が犠牲になったの?みやびが悪いからお父さんとお母さんはケンカをするんでしょ?みやびが悪いからお父さんがほかの女のところに行って帰ってこないんでしょ?みやびが悪いからババアの介護をしなくちゃならなくなったんでしょ?みやびが悪いからお母さんこんなことしてるんでしょ?そうでしょ?違う?違わないわよね?ねっ?ねっ?」
壊れた人形のように早口でまくし立てるようにしゃべる母にうなづくだけで精いっぱいだった。
母の長い親指の爪がわき腹に刺さる。
目をつぶると、ふと西園寺カンナの言葉が浮かんだ。
『みやびちゃんが静子ちゃんをつねるのには理由があるのかなぁって思って。例えば、お母さんにマミちゃん自身がつねられてる……とか?なーんってねっ!!』
ギリギリと奥歯を噛みしめる。
許さない。あたしを……そしてお母さんを侮辱したことを後悔させてやる。
心の中に膨らんだ怒りの炎が全身に広がっていくのを感じた。