イジメ返し２ ～恐怖の復讐劇～

「――沢木さん、ちょっとピアノの屋根を直すの手伝ってくれる？ズレてしまったみたい」

うつろな目をした若菜ちゃんの言う通り、グランドピアノの側板の端に手をつき角度を確認する。

「え……今？ズレてるように見えないけど？」

「いいえ、ズレてるわ」

大きな屋根は５０キロを超える。

若菜ちゃんの細い腕がプルプルと小刻みに震える。

「若菜ちゃん、手伝おうか？」

そう言ったとき、若菜ちゃんは屋根を支える突上棒を弾いた。

全てがスローモーションのようだった。

屋根が両手の指の上に落ちてきた。

ものすごい衝撃と同時に指先に稲妻のような痛みが走った。

「ギャー――――――!!!!」

痛みで頭の中が真っ白になる。

「あらあらあら。ごめんなさいね。手が滑っちゃったみたいだわ」

指を引き抜こうにも重たい屋根は一人ではどうすることもできない。

「早く、早く持ち上げて!!指が……あたしの指が……!!」

若菜ちゃんはなぜかクスクスと笑いながら再び屋根に手をかけた。

けれど、持ち上げるどころか今度は両手で自分の体重をかけ始めた。

「いやあぁぁっぁあああああーーーーー!!やめてぇぇぇぇ！！」

「あははははは！！どう？痛いでしょ～？でもねぇ、先生の痛みはこんなもんじゃないのよ？」

若菜ちゃんが更に力を込めると、人差し指の先に弾けた様な痛みが走る。

「お願いだから、もうやめて!!」

涙が溢れ、痛みで過呼吸になる。ハッハッと短い息を吐くあたしをそばにやってきた逢沢優亜と西園寺カンナがあたしを見下ろす。

「どう？痛いでしょ？でもね、あなたは今までたくさんの人を苦しめて傷付けていたぶってきた。それは肉体的にだけではなく精神的にもね。これはね、全部、因果応報。あなたがした行いが自分に返ってきた結果なの」

「くっ……話なら後で聞くから……！だから、手を……あたしの手を…！」

「嫌よ。あなただってあたしの話を聞いてはくれなかったでしょ？こんなときだけ話を聞いてくれなんてむしが良すぎない？」

「お願いだから……！」

涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で懇願すると、

「若菜先生、もうやめてあげてください」

逢沢は若菜ちゃんを制止して渋々屋根を持ち上げた。

「あっ、そ、そんな……嘘だ……嘘だ……」

爪は割れてその間から鮮血が流れ、鍵盤を真っ赤に汚す。

指は第二関節から下がほとんど折れていた。

曲げようとすると脳まで突き抜けるような痛みが走り、目頭に涙がにじむ。

「どうして……、どうしてなの若菜ちゃん!?」

顔を歪めて叫ぶと、若菜ちゃんがにやりと笑った。

それはもう正気の沙汰とは思えない狂気的な笑顔だった。