ある夏の思い出〜よつばの約束〜
「久しぶり」

…こんなことが言いたいんじゃなくて。

「元気してた?」

これでもなくて。…というか、

「…聞いてる?」

彰人はなんだか上の空で、まだ呆然としているようで…

「…聞いてる、元気だった」

やっとそれだけを言えた彰人。ああ…本当に、

「変わってないね」

驚くことがあったらしばらく呆然としてしまって、しばらく何も言えなくなるのは昔からだ。

変わっていないのが、なんだかとても嬉しくて。

「身長伸びたな」

「そりゃ縮まないから」

笑いながら少し憎まれ口を叩いてしまった。少しだけ考えて言いたかったことを口に出す。

「彰人も…身長伸びたし、なんか…かっこよくなったね」

なんだか恥ずかしい。

「あっそ」

…すべった、てやつだろうか。と思ったら。

「お前も、綺麗になったな」

らしくなさすぎるセリフ。顔が熱くなるのを感じた。

「本当?彰人にそう言ってもらえるのが一番嬉しい」

ちょっとは気の利いたセリフが言えただろうか?

「急にどうしたんだ?」

…適当に考えて答える。

「ちょっと里帰りみたいな」

「おばさんたちは?」

私は一瞬固まった。彰人が気付かないくらい。母さんも父さんも、私と同じ車に乗っていた。

「…置いてきちゃったんだ」

そう。置いてきた。私は病院で意識不明だったし、成仏?しているわけでもなかったから、2人がどうなったかまだ知らない。

「ちゃんと言ったのか?」

「もちろん」

言ってないけど。と、心の中で呟く。

「ならいいけど…いつまでいられるんだ?」

「しばらく」

「どっか泊まるのか?」

少しだけ考えて、

「アテはあるから心配しないで」

彰人ならこれで分かるよね?

「彰人んちに泊めてくれる?」

「…母さんがいいっつったらな」

「やったぁ、ありがとう」

「お前ほっといたら野宿するだろ」

読まれていた。それが嬉しい。

「大当たり!断られたら野宿しようとしてたの」

「お前もう16だろ?年頃の女子が野宿とか危ねぇだろ、そういう考えやめろよ」

心配してくれて嬉しくて顔に出そうだけど出さずに…

「はは、彰人ったらお母さんみたい。自分だって16のくせに」

顔に出てないはず。

彰人は変わっていない。本当に昔のままで。

「学校行くんじゃないの?」

「うわ、ほんとだ忘れてた」

学校行くのも忘れるほど私といたかったのだろうか…と勘違いしたくなる。

「連れてってよー」

「金はあるのか?」

「もちろん」

駅員さんに私は見れないし、改札にも認識されないから。

「しょうがねぇなぁ…乗れ」

「がってん承知!」

昔と同じ掛け声とともに自転車に飛び乗った。

「行くぞ」

暖かい背中。私の体はきっととても冷たい。

変に思われないか、すごく心配だった。
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