ある夏の思い出〜よつばの約束〜
「ほんとに久しぶりだよね」

「あぁ」

電車に揺られながらの会話はなんだか新鮮で、なんだか嬉しかった。

…さっきから、嬉しいこといっぱいだ。

「なんか声低くなった」

「そうか?」

「それに身長だって昔は一緒くらいだったのに今は彰人のが10センチくらい高くなってる」

「そうだな…チビ」

「なに余計なこと言ってんのよ!」

本当に変わってない。昔からそうだ、しょっちゅうこうやって馬鹿にして。

なんか綺麗なところばっかり覚えていた気がする。綺麗じゃなかったところが思い出される。…笑いがこみ上げてきそうだ。

「俺が学校行ってる間どうすんの?」

「適当にぶらついとく」

「終業式だけだから12時半には終わる」

「分かった…終わったあとどっか行かない?」

少し勇気を出してみた。

「そうだな」

「いいの?約束だからね!」

とても嬉しい。彰人と過ごせる時間に限りがあるのを知っていたから、余計に嬉しかった。

「学校どこ行ってるの?」

「S高校」

「へぇ〜、やっぱ賢いよね」

「そんなことないぞ」

「なに言ってんの、ここらの学区じゃ一番賢いじゃん!」

「まぁな」

「わー、出ました彰人のドヤ顔」

「うるせぇよ、お前は?」

「東京のT高校」

「賢いとこじゃねぇか」

「まぁね!」

そう。昔からみんなに頭いいって言われていた彰人とつりあえるように頑張って勉強していたんだよ…とか言えないけど。

「お前のほうがドヤ顔じゃねえか…」

「やっぱり?実は自覚してた」

だって一番自慢したかった相手、彰人だもん。

「してるのかよ」

そうやって喋っている間に降りる駅がきてしまった。もっと長ければいいのにと、電車を恨んでも仕方がないことだが。


「じゃあ後で」

「待ってるから」

ささやかな約束。でも本当は存在しなかったはずの約束。

そう思うとなんだか寂しくて、切なくなった。
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