鶴さんの恩返し
プロローグ
こんこんと降り続ける雨。
狭いベランダには、こじんまりした家庭菜園。
いくつかのプランターに並ぶ、芽吹いたばかりの小さな生命。
空は暗くて、どんよりしている。
雨はいいね。
泣いても洗い流してくれるから。
その流れた涙がどこに行き着くかなんて分かったもんじゃないけれど。
昼間なのに薄暗い部屋の中で、室内干しの洗濯物がほんのり柔軟剤の香りを漂わせる。
この香り、あの人が好きだったなぁなんて。
冬や梅雨の時期、部屋干しが多くなる季節によくあの人が「いい匂い」って言ってたっけ。
スーパーで安売りしている大容量の柔軟剤で、メーカーや香りにはこだわりもないし、適当に選んでいるだけなのに。
それでもあの人は、私の些細なセンスをいつでも褒めてくれた。
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