鶴さんの恩返し
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ほんの少し隙間を開けた窓から、湿気を含んだ冷たい風が吹き込んでくる。
その風で、大きな体を丸めるようにして座っている懐かしい鶴さんの髪の毛がふんわりと揺れた。
見た目やファッションに無頓着な鶴さんは、最後に見た時と全く同じ髪型と服装でそこにいた。
少し量の多い髪の毛が、湿気でくしゃっとところどころはねている。
鶴さんは目尻を下げて、ふふふと笑った。
「小春さん。こんばんは」
普通に挨拶されて、私は戸惑いながらも上ずった声でどうにか言葉を絞り出す。
「こ、こ、こんばんは」
思ったよりもどもってしまった。
あぁ、私、動揺してる。
手が震えてどうしようもない。
そんな私をよそに、鶴さんはキョロキョロと部屋の中を見回して、上に着ていたカーキ色のダウンジャケットを暑そうに脱ぎ出した。
「えっとー……、今日って何月何日?」
「え?し、7月7日だけど……」
「なるほど、どうりで暑いわけだね」
ダウンジャケットをそのへんにポイと脱ぎ捨てて、さらには厚手のセーターも脱いでしまった。
薄手のロンTになったあと、これまた厚手の靴下もポイポイと投げた。
この光景を見るのは、実に5年ぶりだ。