鶴さんの恩返し
ケーキには手をつけないまま、色々な話をした。
鶴さんのご両親の話や、彼の兄弟の話。共通の友達のこと。
この5年で変わったことを、彼になるべく漏れのないように話した。
「鶴さんのお墓は、作ってないのよ。何も見つかってないのに、死んだなんて決めつけたくないってお母さんが言っていて」
「そっか。僕自身どこまで流されたか分かってないから、なんとも言えないけど……」
「ねぇ、明日ご両親に会いに行かない?きっと喜ぶと思うから!」
我ながらいいアイデアだと思った。
彼のご両親も、幽霊かもしれないとしても鶴さんには会いたがってるはずだ。
最初は驚くかもしれないけど、きっと話しているうちに分かってくれるだろう。
「明日、か……。う〜ん……」
鶴さんが歯切れの悪い返答をしていることに、なんの疑問も持たずに私は彼に笑いかけた。
「幽霊でもなんでもいいから、このままずっとここにいて。鶴さんと暮らしたい」
「小春さん……」
困ったように眉を寄せる鶴さんの表情を、見ないようにした。
「明日のご飯のおかずはどうする?鶴さんのリクエストに応えるよ。あ、ビールはもう無いから、買ってこないといけないね」
「あの、小春さん」
「明日は仕事、休むって連絡するから大丈夫。鶴さんのお父さんとお母さんには連絡しないで行ってみる?サプライズで驚かせる?」
「小春さんっ」
私の一方的な話を遮るように、鶴さんが一声強く上げた。
シュンと黙り込む。
口をつぐんだら、ふわりと鶴さんの手が私の頭に乗せられた。