なくした時間にいてくれた
「う、ん……」


絞り出した声は情けないくらい掠れていた。


「先生!」

「岡、なんだ?」

「松本さんが気分が悪いと言うので、保健室へ連れていってもいいですか?」

「ああ、行ってこい。松本、大丈夫か?」


先生から了解をもらった岡くんは教科書とノートを閉じて、私の横に来た。


「歩ける?」


頷くことしか出来ない私の右腕を持ち、立ち上がらせてくれる。周囲の視線を感じるけど、岡くんに支えられる形で教室を出た。

教室と違う廊下の空気が気持ちよく感じて、手を借りなくても歩けた。


「岡くん、ありがとう」


保健室がどこにあるのかさえも分からないから、一緒に行ってくれるのはありがたかった。

それとあの入り乱れる感情から救いだしてくれたのもありがたかった。


前を歩く岡くんの背中を見ながら歩く。意外にしっかりとした肩幅が頼もしく見える。

二つ上の男子はこんなにも頼もしく見えるものなのかな。同い年の男子たちと比べると大人に見える。
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