なくした時間にいてくれた
「おばあちゃん、鏡ある?」

「鏡? あるわよ。はい、持てる?」


祖母が茶色のカバンから取り出した丸い鏡を受けとって、おそるおそる自分の顔を見て、目を丸くした。


「マジ?」


そこにうつったのは私ではなくお姉ちゃんの楓花。

なにこれ、入れ替わりとかいうやつ?

強い衝撃のあとに中身が入れ替わったとかいうのを前にドラマで見たことあるけど……私の魂がお姉ちゃんの中に入ったということ?

じゃあ。お姉ちゃんの魂はどこ?

私の中?


「おばあちゃん、私の……じゃなかった。花実(はなみ)はどこにいるの?」

「花ちゃんは隣の部屋で……」

「楓花ー! あー、良かった! どこか痛いとこない?」


そのとき、母と祖父が部屋に入ってきた。母は左手首に包帯を巻いていた。


「うん……ちょっと背中と首が痛いけど、大丈夫だよ。お母さんこそ、その手大丈夫なの?」

「あー、うん。大丈夫よ。手がダッシュボードにぶつかってちょっと捻っただけだから」
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