遠回りして気付いた想い
「見に来てくれたんだ」

亜耶の弾んだ声が聞こえてきた。

聞き耳を立ててる訳じゃないぞ、近くに居るから聞こえてくるんだからな。

誰に言い訳してるんだ、オレ。

「あぁ、亜耶に誘われたら断れるわけ無いだろ。まぁ、アイツは誘われなくても来るだろうが…」

アイツって、誰の事だ?

オレは、黙々と作業を続けていた。

「ねぇ、お兄ちゃん。飛び入りで百メートル走、出て欲しいな」

亜耶が、甘えた声で言う。

エッ、そんな甘えた声聞いた事無い。

まぁ、うちの学校は飛び入り参加、大歓迎だから、そう言ったんだろう。

「オレ、運動するカッコウで来てないんだが?」

お兄さんがそう言うので、改めて格好を見れば、確かにTシャツにチノパン、スニーカーって、至ってシンプルなカッコウなのに、決まってるって反則だと思う。

「大丈夫だって。お兄ちゃんなら。だから、お願い」

亜耶が、お兄さんの裾を引っ張っていってる。

何、そのおねだりの仕方。

オレの前でしたら、いちころだぞ(他の男子生徒もだろうが…)。

って、いうかオレこんな亜耶見た事無い。

「わかった。もう一人道連れにするが、良いか?」

意味ありげに言うお兄さん。

亜耶には、直ぐに判ったみたいで。

「良いよ。"頑張ってね"って、遥さんにも言っておいて」

亜耶が、笑顔で言う。

はるかって誰だ?

女の人か?

オレが、モヤモヤと考え込んでると。

『百メートル走に飛び入り参加される方は、入場門に集まってください』

と放送が入った。

「じゃあ。アイツを見つけて、入場門に行くわ」

お兄さんが、そう言ってオレに会釈だけして、去って行った。

オレが、聞いてたの気付いてた?

「悠磨君。一緒に百メートル走、見に行こ。きっと面白いことになると思うよ」

亜耶が上機嫌で、オレの体操服の裾を引っ張ってくる。

オレは。

「あ、あ…」

亜耶の言われた通りに移動した。
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