海老蟹の夏休み
 池の周囲に竿を手にした子ども達が並び、その横から大人達が見守っている。朋絵が小学生だった頃と、なんら変わらない光景だ。

 ただ、自分が参加できないことが大きく違っている。楽しそうな子ども達が羨ましくて、朋絵は落ち着かなかった。

 朋絵は手持ち無沙汰から、現在29歳だという沢木の姿を、しばし観察した。

 ネームプレートを胸に付けた学生と手分けして、子ども達を手助けしている。
 釣り上げたザリガニの持ち方、部位の説明など、忙しそうだ。

 朋絵は自分が子供だった頃を思い出そうとするが、どうも曖昧だった。
 あんなふうに学芸員の人に世話になった記憶がない。というよりも、ザリガニを釣るほうに夢中で、他のことは無頓着だった。

「わー、また逃げたー」
 朋絵の前にいる子どもが、捕まえかけたザリガニを取り逃がし、泣きそうな声を上げる。
「もういっぺんやってみようか」
「だめだよ、もう、つまんない」
 なだめる母親に竿を押し付け、べそをかいている。
 まだ低学年くらいの男の子で、バケツを見ると一匹も上げていないようだ。

「ゆっくり引けばついてくるよ」
 朋絵は親子の横に座ると、アドバイスした。
 特に何も考えない無意識の行動だったが、二人はけげんな目で見返してくる。高校生の朋絵は、ここでは場違いな存在であり、怪しまれたのかもしれない。
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