海老蟹の夏休み
「あーあ、高3の夏なんてつまんない」

 朋絵は投げやりに言うとソファに寝転んだ。
 テーブルに放ってあるタウン誌を手に取り、パラパラめくる。

 夏祭りや花火大会の特集が組まれている。
 見開きページでは、浴衣姿のカップルが仲良く寄り添っていた。
「いいなあ、こういうの」
 ぱたりとページを閉じて、立ち上がった。

 大学生になれば、彼氏ができるかもしれない。
 そしたら、あんなことやこんなことをして、楽しく過ごすんだ。
 そう、きっと、大学生にさえなれば。

 朋絵はそんなことを考えながら、ため息をつく。
 実際のところ、彼氏がどうしても欲しいわけではない。
 自分でも分かっていた。

 模試の判定では合格ラインすれすれのB大を目指している。
 平日は学校と塾通い。休日も補習と塾。
 休みなんて、ないも同然。

 朝から晩まで受験勉強に頑張る毎日に、朋絵は疲れきっている。

 逃げ出したいだけなのだ。

 希望の持てる想像ならば、何でもよかった。

 蒸し暑い部屋に戻り、勉強するなんて地獄だ。

(エアコンが壊れたのは一か月も前なのに。前から買い替えてって言ってるのに)
 娘が受験生なのに、両親はのん気なもの。
 だけど、八つ当たりしても心は晴れなかった。

 午後からは図書館で勉強することにして、準備を始めた。


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