海老蟹の夏休み
 ザリガニ釣りの最中に見せた微笑みと同じ、明るく爽やかな表情。
 そして、「お疲れさん」という労いの言葉には、温かみと、朋絵に対する気遣いが感じられる。

 じっと見返されて心地が悪いのか、彼はぎこちなく顔を横に向けて朋絵から離れた。
 そして、三日月池の周りをゆっくりと歩き始める。

 夕焼けのせいではなく、彼が赤くなったのがわかった。
 恥ずかしいのか、それとも照れくさいのか不明だけれど、本当に、茹でたての海老か蟹のようだ。

 朋絵は、池を時計回りに移動する沢木を見ながら、ある想像をした。
 最初に受けたクールな印象は、あれはもしかして、彼の緊張感によるものではないか。
 人に対して、ひどく不器用なのかもしれない。

 朋絵は急に親近感が湧いてきて、なんとなく彼のあとをついて歩いた。

 池はその名の通り三日月形で、円にすると直径は5メートルくらいのもの。
 それほど大きくないのに、子どもの頃は、もっと広くて深いように思えた。不透明に濁った色は沼のようで、ちょっと怖くもあった。

 そんなことを考えながらついていくと、沢木が不意に立ち止まる。池に覆い被さるように枝を伸ばす、大樹の根元だ。豊かに葉を茂らせるクスノキは、今も昔も池の主のように堂々としている。

 沢木は少し考えるふうにしてから、屈みこんで何か拾う。
 朋絵のほうを向くと、黙ってそれを差し出した。
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