海老蟹の夏休み
水族館と白衣の男
　山道を少し上がったところで、朋絵は目を瞠った。二階建ての立派な観光案内所が建っている。
「すごーい」
　案内所は以前にもあったが、こんなしっかりしたものではなく、今にも倒れそうな掘っ立て小屋だった。
　変わらないと思った穂菜山も、よく見れば朋絵の知らない施設が出来上がっているのだ。

　案内所のドアを開けて足を踏み入れると、中は広くて明るい。冷房も効いて涼しく、たくさんの行楽客で賑わっている。

　大型の液晶ディスプレイやジオラマで穂菜山の自然を紹介するコーナーが設けられている。
　奥には売店と自動販売機の並ぶ休憩所もあった。

（6年も経つとやっぱり変わるんだね）
　感心すると同時に、なぜか寂しさも覚える。とりあえず受付カウンターの前まで行き、公園のリーフレットを一部もらった。ちゃんとした印刷物なので感動する。

「ん？」
　リーフレットを広げると色紙が挟まっていて、そこには《夏休み特別イベントのお知らせ・穂菜山淡水魚水族館》とあった。
　朋絵はイベントをひとつひとつ丁寧に確認し、その一行を見つけると目をきらきらとさせた。


　――　ザリガニ釣りにチャレンジ！　7月21日（土）～9月1日（土）――


（やっぱり、今でも変わってない！）
　朋絵は、はやる気持ちを押さえきれずに案内所を飛び出すと、元気な足取りで山道を上って行く。
　長い間忘れていたときめきが、復活していた。


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