キエルビト


 「おーい、生きてるー?」
  つんつんつん。柔らかな棒かなにかで頬を突かれた。
  

 それと同時に、知らない声が降り注ぐ。男の子…だろうか。
 
 初めて聞く声なのに、どこか温かさをにじませているように思える。
  と、そこで思考を中断する。
 声が聞こえるということは、人がいる…?
 

 再び思考を張り巡らせ、その結論に至ると、一気に体の力が抜けていった。
  

  どうやら神様は追手に捕まる事を望んだらしい。なら、抵抗はするまい。
 「ゔー、マジで人のかよ、それ。」
  また、別の声がする。
 

 それ……、私のことだろうか。
 冷たさに幼さが隠れている…いや逆か…そんな感じの声だ。
 
 正確な年齢は分からないが、声音は子どものものだ。
 声変わりが遅れているのだろうか。
 「顔からとは大胆だね、この子。」
  !! 女の子の声だ。凛とし、よくとおっていて、前の二人に比べて圧倒的に声が高いので、間違いない。
  
  
  一番目の男の子(だと思われる人)も声は高いが、やはり男しか持たない声というものはある。
   

 …追手じゃないのだろうか。女特有の声を聞き、推測に疑問を感じる。
   そういえば、全員声が幼い。話し方も、口調でさえも。…もしかしたら。
  女の子の声を思い出しながら、はたと気づく。顔…言われてみれば顔が痛い。
 
  今、私はうつ伏せになっているのか。そしておそらく年齢不詳の三人に囲まれている。
  

 そう考えると、急に興味がわいてきたので、上体を起こすことにした。
 体の向きをかえ、ゆっくりと起きあがる。


 ずしゃ。
  周りを取り囲んでいたのであろう三人が、小さな悲鳴とともに後ずさる音がした。
  

 私は、そんなのお構いなしに、口に入った土の塊を吐き出し、顔についた草や泥を払う。
 「わっ、こ、こんにちはっ!」
 「なっ、なななに挨拶してんだよっ、馬鹿野郎!」
 「そ、そーゆーリンタもめちゃくちゃ動揺してるじゃない!」
   重くなった頭をゆっくりと動かし、眼を三人に向ける。
  やはり。
 「…子ども」
  三人とも顔立ちが幼かった。
  どこからどう見ても大人には見えまい。
  どうやら神様は、大人の追手ではなく子供に発見されることを選んだようだ。 
 「ガキで悪いかよ。つかお前もそーじゃねーか。」
  この子は確かリンタと呼ばれていた。
 二人目の声の主にぴったりな童顔で、女の子でも通じるような顔立ち。
 肌は白く、黄金に輝く瞳がひときわ目立つ。
 その瞳と同じ色をした髪を黒いゴムでしばり、ピンでとめてある。身長は三人の中で最も小さかった。
  なんというか、とても可愛らしい。
 さっき発言した際も、俺の言い方かっけー!と、目を爛々と光らせていた。
  行動も外見も、とにかく子供なのだ。
 「リンタッ!言い方かっこ悪いわよ。」
 「う、ふぐぅ…んなことわかってらぁ!カルだって菓子くってばっかじゃねーか!」
  唯一の女の子はカルというらしい。
 健康的な小麦色の肌に、きりっとした紅の瞳。髪は長く、ポニーテールとして一つにまとめてある。
前髪ははねっぱなしで申し訳程度にピンでおさえてあるだけだった。(よく見ると、リンタとお揃いのピン?)
 そして、女子から見てもわかることがあった。
 この子の容姿はとても可愛い。
 服はラフな格好なのだが、体のラインがよく出ていて、カルの細さと胸の膨らみの大きさがよく目立っている。
 街を歩いてれば途端に話しかけられる美人タイプ…というわけでもなく、どちらかというと、活発でみんなから慕われ、愛されていそうな人だった。
 そんな少女の手には何本ものチョコ棒が握られている。
 彼女がかけているバッグに、たくさんのお菓子が入っているのが見えた。
 「まぁ細かいことは置いといてー」
 「細かくねーだろ!お前は適当すぎんだよ!」
 「まあまあ、二人とも。 あ、僕はヒロだよ。よろしくね。」
  この声は一番初めに聞いた声だ。
 妙に心を落ち着かせてくれる。…なぜだろう。
  髪ははリンタより少し薄い金髪だった。 
 人懐こい笑顔は見るものにやすらぎをあたえる。
 「おいヒロ、なによろしくしてるんだよ!?」
  すかさずリンタがギャンギャン噛みつく。
 「いいだろ、リンタ。ここに倒れてたってことは困ってるってことなんだからさ。」
 「た、たしかにそーだけど…お前はお人好しすぎなんだよ!」
 「当たり前のことをしてるだけだろ?」
  考え事をしているうちにいつの間にか二人は口論になっていた。
 そこにカルが乱入し、二人を無視して私に問う。
 「ねぇ、あなたの名前は何?」
  ……
  ………
  …………
  答えられない。
 わざわざ私なんかのために聞いてくれたのに申し訳なかったが、こればっかりは仕方なかった。
 だって、私ごときに名前なんて必要ないのだから。
 ないものを言えと言われても困る。
 この世界の常識だと、誰にでも名前があるものなのだろうか。
  とにかく無言だと失礼になると思い、仕方ないので黙って左肩を出した
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