キエルビト
ヒカリ
やっと本来の"自分"が戻ってきた。
今までの葛藤は全て無駄だ。私は、化物なのだから。
この人たちといる資格は、ない。
そう心を改め、全ての罪を呑み込んでしまいそうなほどの笑顔を浮かべたヒロに、少々罪悪感を感じながらも、口を開いた。
自分では気づかなかったが、それは罪悪感ではなくこのことを口にするのが残念だというためらいからだった。
「今のは取り消…」
「ヒカリ。うん、いいね。君は今からヒカリだよ。」
どくん。
私が言い終わる前に被さったヒロの言葉が、皮膚を貫き骨を断ち、血を吸い込むと心をも掴んだ。
その瞬間、確かに私の中の"ナニカ"が弾け飛んだ。
ついさっき戻ってきたはずの自分がまた暗闇に姿を消してしまった。
その代わりか、人らしさを含んだ自分が宝箱を掲げながら笑顔を浮かべていた。
『ほら、楽になっちゃいなよ。救われちゃいなよ。後のことなんて考えたってわかんないでしょ?』
そう言いながら、大事そうに持っていた箱をこちらに渡してくる。
『この箱の鍵を解いて…人間に…。』
無意識に受け取っていた箱は、ずっしりと重い。何キロもする鎖が幾重にも巻いてあるからだ。
…この鎖を解いたらどうなるの?
その問いには応えず、もう一人の私は、あなたなら開けるはずよ、だって私はあなたであなたは私なんだもの…と、少々理解しがたい言葉を残して消えてしまった。
だが、その言葉通り、私の手は一心に鎖を解いていた。自分でも驚くぐらい迷いがなかった。
いや、意味なんてなかったのだろう。ただ、"この鎖を解かねばならない"という使命感だけがあった。
二重、三重と重なった鎖が、手を当てるだけで抵抗もなく解かれ、箱の蓋が僅かに開いた。
どくん。
それに合わせて再び鼓動が高まる。
その時、私は悟った。
そうか。この箱は、私の心そのものなんだ。
昔々に奥深くに押しやり、厳重に鍵をかけたはずの。こんなにすらすら解けたという事は、つまり…
箱の蓋が少しずつ開くのに合わせて、失ったはずの感情が戻ってくる。
体を巡っている感覚が、今まさに体を貫かんとしているのがわかる。
「だめっっっ!!!」
自分の意志に反する感情を黙らせなくては!
箱の蓋に手をやる自分を抑えこむために、声を荒らげる。
もしこのまま"ココロ"が戻ってしまったら。
本当に取り返しがつかなくなるだろう。
「泣いてるの…?」
カルに言われてはっとする。
さっきから頬に伝っていたものは、涙か。
視界がにじむのも、頬が熱いのも、そのせいなのか。
頬の筋肉は一切動いていないはずなのに。無表情でも泣けるものなんだな…
変な感慨を胸に秘めながら、今まで放置していた涙を止めようと意識する。
「ありが、とう…。あれ…?」
涙が止まらない…。感情のコントロールができていない…?箱を開く手は半分に達したところでやっと止まったのに…。
私はおかしくなってしまったのか。
なのに、どこか心地よいと感じているのはなぜ…?
数年前に流れた涙とはかけ離れた温かい涙だったからだろうか。
心の氷がじわじわと溶けていく。
「それにしても、なんでヒカリなんだ?こいつ、さっきから無表情で一度も笑ってねーぞ。」
リンタの声が心の内側にまで響く。 おかげでやっと涙が止まった。
ぼうっとしていた思考がクリアになり、リンタと同じ疑問が浮かぶ。
そう。なぜよりによって光なの…?私は影なのに。
「何言ってんのさリンタ。ぴったりだよ。この子に光を与えてくれる名前。そして僕達にも…。」
陽だまり笑顔の彼が言った。
その言葉に、一度引っ込んだはずの例のものがまた流れだす。
けれど。
「だめ!!このままじゃ…」
半分ほど開いた箱から溢れんばかりになっている"元凶"を閉じ込めるために、手を頭に強く当てる。
さっきまではスムーズに動かせたはずの蓋は、箱にぴったりとくっついてしまって動かなくなっていた。
開きもしないが閉じもしない。
だめだめだめだめ………
このままじゃ…………
何度も心で繰り返す。
頭で危険信号がちかちかと点滅している。
とにかく、これ以上は。
「ねぇ、ヒカリちゃん。さっきからこのままじゃだめって、どーゆーことなの?」
その言葉に、きつく閉じていた目を開くと、カルが私の顔を覗きこんでいた。
…今、私はどんな顔をしているのだろう。無表情を保てているだろうか?
それらを懸念し、久しぶりに無表情になろうとした上で、言った。
「…そのままの意味。」
今までの葛藤は全て無駄だ。私は、化物なのだから。
この人たちといる資格は、ない。
そう心を改め、全ての罪を呑み込んでしまいそうなほどの笑顔を浮かべたヒロに、少々罪悪感を感じながらも、口を開いた。
自分では気づかなかったが、それは罪悪感ではなくこのことを口にするのが残念だというためらいからだった。
「今のは取り消…」
「ヒカリ。うん、いいね。君は今からヒカリだよ。」
どくん。
私が言い終わる前に被さったヒロの言葉が、皮膚を貫き骨を断ち、血を吸い込むと心をも掴んだ。
その瞬間、確かに私の中の"ナニカ"が弾け飛んだ。
ついさっき戻ってきたはずの自分がまた暗闇に姿を消してしまった。
その代わりか、人らしさを含んだ自分が宝箱を掲げながら笑顔を浮かべていた。
『ほら、楽になっちゃいなよ。救われちゃいなよ。後のことなんて考えたってわかんないでしょ?』
そう言いながら、大事そうに持っていた箱をこちらに渡してくる。
『この箱の鍵を解いて…人間に…。』
無意識に受け取っていた箱は、ずっしりと重い。何キロもする鎖が幾重にも巻いてあるからだ。
…この鎖を解いたらどうなるの?
その問いには応えず、もう一人の私は、あなたなら開けるはずよ、だって私はあなたであなたは私なんだもの…と、少々理解しがたい言葉を残して消えてしまった。
だが、その言葉通り、私の手は一心に鎖を解いていた。自分でも驚くぐらい迷いがなかった。
いや、意味なんてなかったのだろう。ただ、"この鎖を解かねばならない"という使命感だけがあった。
二重、三重と重なった鎖が、手を当てるだけで抵抗もなく解かれ、箱の蓋が僅かに開いた。
どくん。
それに合わせて再び鼓動が高まる。
その時、私は悟った。
そうか。この箱は、私の心そのものなんだ。
昔々に奥深くに押しやり、厳重に鍵をかけたはずの。こんなにすらすら解けたという事は、つまり…
箱の蓋が少しずつ開くのに合わせて、失ったはずの感情が戻ってくる。
体を巡っている感覚が、今まさに体を貫かんとしているのがわかる。
「だめっっっ!!!」
自分の意志に反する感情を黙らせなくては!
箱の蓋に手をやる自分を抑えこむために、声を荒らげる。
もしこのまま"ココロ"が戻ってしまったら。
本当に取り返しがつかなくなるだろう。
「泣いてるの…?」
カルに言われてはっとする。
さっきから頬に伝っていたものは、涙か。
視界がにじむのも、頬が熱いのも、そのせいなのか。
頬の筋肉は一切動いていないはずなのに。無表情でも泣けるものなんだな…
変な感慨を胸に秘めながら、今まで放置していた涙を止めようと意識する。
「ありが、とう…。あれ…?」
涙が止まらない…。感情のコントロールができていない…?箱を開く手は半分に達したところでやっと止まったのに…。
私はおかしくなってしまったのか。
なのに、どこか心地よいと感じているのはなぜ…?
数年前に流れた涙とはかけ離れた温かい涙だったからだろうか。
心の氷がじわじわと溶けていく。
「それにしても、なんでヒカリなんだ?こいつ、さっきから無表情で一度も笑ってねーぞ。」
リンタの声が心の内側にまで響く。 おかげでやっと涙が止まった。
ぼうっとしていた思考がクリアになり、リンタと同じ疑問が浮かぶ。
そう。なぜよりによって光なの…?私は影なのに。
「何言ってんのさリンタ。ぴったりだよ。この子に光を与えてくれる名前。そして僕達にも…。」
陽だまり笑顔の彼が言った。
その言葉に、一度引っ込んだはずの例のものがまた流れだす。
けれど。
「だめ!!このままじゃ…」
半分ほど開いた箱から溢れんばかりになっている"元凶"を閉じ込めるために、手を頭に強く当てる。
さっきまではスムーズに動かせたはずの蓋は、箱にぴったりとくっついてしまって動かなくなっていた。
開きもしないが閉じもしない。
だめだめだめだめ………
このままじゃ…………
何度も心で繰り返す。
頭で危険信号がちかちかと点滅している。
とにかく、これ以上は。
「ねぇ、ヒカリちゃん。さっきからこのままじゃだめって、どーゆーことなの?」
その言葉に、きつく閉じていた目を開くと、カルが私の顔を覗きこんでいた。
…今、私はどんな顔をしているのだろう。無表情を保てているだろうか?
それらを懸念し、久しぶりに無表情になろうとした上で、言った。
「…そのままの意味。」