未来の君のために、この恋に終止符を。
「大きな声が聞こえたけど、どうかしたの?」
「どうかしたって……」
不思議そうに小首を傾げたお母さんがとめる間もなく私の部屋に視線をやる。
私は「あっ」と自分の身を隠すような小さな声をあげた。
「……」
晴樹以外との人間関係をすっぱりと断ち切ってしまった私の部屋に、見知らぬ男の姿。
お母さんは驚くだろうか、怒るだろうか、……人と関わっていることに喜ぶだろうか。
そんなことを考えつつ、顔を背けていると何事もなかったかのように私に視線が戻された。
「電話でもしていたの?」
「え?」
確かに視界には彼がいるはずなのに、まるで誰もいないみたい。
彼に勢いよく顔を向けると、わかっていたらしく表情を変えず、立てた人差し指を唇に寄せる。
「おばさんには見えてないから、なにも言わない方がいいと思うよ」
内緒、と少し声を弾ませる彼の言うとおりにするのは癪だけど、どうやらお母さんには本当に見えていないらしく再び名前を呼ばれる。
変に口にして心配されるのもいやだし、病院に連れて行かれたら面倒だ。
「……まぁ、そんなところ、かな」
お母さんの言葉に曖昧な言葉を返した。
そしてそのまま彼女はリビングに戻るようにと、背に触れて促す。