未来の君のために、この恋に終止符を。
だけどそんな彼女だからこそ私はそばにはいられないと思う。
避けている姿を見られたくなくて、学校までついて来ようとしていた未来の晴樹をも拒絶した。
だから今、私は本当にひとりだ。
廊下の隅でうつむいて、重たい足をなんとか前に出していると、隣に私より大きな影が落とされる。
「置いて帰んないでよ」
そう言って晴樹は魚が波の狭間をすり抜けるように隣に並んだ。
「……ごめん」
「まぁ、すぐに追いつくからいいけど」
すっかり彼のことを忘れていた私に対して、怒りを向けることはない。
いつも通りの晴樹の様子に、戸惑いを必死に隠した。
私たちのことがみんなに知られてしまったこと、晴樹が知らないはずがない。
今だって何人もの視線が突き刺さっている。
それなのにやっぱり彼は態度を少しも変えなくて、あまりにも自然だからこそ不自然だ。
廊下を突き進んで、階段を降りて、ローファーに履き替える。
これといったことのない日常だけど、空気はざわめいていて、肌に絡みつくようでうざったい。
その間、晴樹は普段と同じように私になんてことない話を振ってくる。
今日の授業についてとか、お昼ご飯についてとか。
雑談とはよく言ったものだ、雑な返答だけでも談話は進む。
端的に答えるだけの私と無理に会話して、彼はなにが楽しいというのだろう。