未来の君のために、この恋に終止符を。
どうやら現在の晴樹と未来の晴樹では、「ごめん」の意味が違うらしい。
現在の彼はただ、私の腕の傷のことだった。
だけど未来の彼は、晴樹が謝ったことで辛くなったこと。
私が晴樹を傷つける言葉を吐き出したことで苦しくなったこと。
そんなことを、謝っていた。
「っ、」
音もなく、熱のこもった息が食いしばった歯の隙間からもれる。
そんなにたくさんの想いを向ける必要なんてない。
いくら責任を感じているからってそこまでしなくていい。
だって私にはそんな価値はない。
……なのに、どうしてそんなに優しくできるの。
そう思った瞬間、ぶわりとあつい涙が瞳の上に浮かぶ。
こらえる間もなく頬を転がり、あごの先まで伝った。
晴樹の優しさが悲しい。
愛おしくて、……哀しい。
「私こそ、ごめんね……っ」
自然と胸の中に渦巻いていた感情は、空気を震わせて、謝罪という形で晴樹に向けられた。
現在の未来の間、7年越しに、彼の元へと届いた。
情けないほど弱く、逃げて誤魔化してばかりの自分が、ようやくちゃんと謝れることができてほっとする。
「うん」
目を細めて、晴樹は私の謝罪の言葉を受けとめた。
さみしそうな複雑な表情で、きっと未来の晴樹にとっての過去のことを思い出しているんだと思った。
「俺なら大丈夫だから、泣かないで」
そう言った彼がまるで頭を撫でるように、言葉で私を包みこむ。
彼のぬくもりを感じるように心がぽかぽかとあたたかくなり、泣きたくないと思う。
なのに、私の身体は私の気持ちなんて無視して涙を落とし続けた。