未来の君のために、この恋に終止符を。
「こんな傷で、晴樹を縛っているんだよ」
衝動的にセーラー服をまくり、傷を彼女に見せつける。
ぽこりと浮かぶ、小さな傷はそれでもやはり異質なんだ。
「私なんて、ただ長くそばにいただけ」
だから、幼馴染だから、こんなふうに話すことができるけど。
でも、そうじゃなかったらありえなかった。
視線を落として、まつげの先まで震わせる。
勢いのままに投げつけた本当の気持ちは彼女にぶつかり砕けてしまいそうだ。
私を包むやるせない現実から目をそらすようにぎゅうとまぶたを閉じた時、片岡さんはそうかな? と柔らかな声をあげた。
不思議と、未来の晴樹が頭に浮かんだ。
「もし仮に、晴樹が花沢さんと付き合うつもりが最初はなかったとしても。
長くそばにいたからこうして付き合うことに繋がったんだとしても。
晴樹が嫌いな人と付き合うとは思えない」
「そう、かな」
「そうだよ。だから自信持っていいんだよ」
彼女の真摯な言葉に曖昧な表情で応える。
片岡さんの言葉は嬉しいけど、だけどそのまますべてを受け入れられるほど私もばかじゃない。
嫌われていなくても、好かれてはいない。
そのことを知っているから、付き合っていることに価値は見出せないと思う。
「それに、花沢さんがどう考えているかはわからないけど、わたしは時間ってすごいと思う」
透明感のある声は、薄暗いこの場所には似合わない。
水で濡らしたかのように、つるりと光を反射する。
そのまま私の心を貫く。