未来の君のために、この恋に終止符を。
「それなら、どうして私には見えるのに……お母さんには見えないの」
それは当然の疑問のはずだ。
だって実体がないというのに、私に彼が見えるということはお母さんにも見えたっておかしくないでしょう?
私は実際に触れるまで空気のような感覚がするとわからなかったくらい、彼の姿ははっきりと色が乗せられている。
それなのにお母さんには透明なガラスほどの違和感さえも感じさせていなかったなんて、異常としか思えない。
「そもそも前提が違うよ。
おばさんが見えないのはおかしなことじゃない」
「どういうこと」
「俺を見ることができるのは、実莉だけなんだ」
みんなと違うのはお母さんじゃなくて、私?
私だけが彼を目で捉えることができるの?
今までになかった、自分が唯一となる機会を得ながら、そんなもの欲しくなかったと思った。
どうしてそんな特別を与えられてしまったというの。
「未来から来た俺のただひとつの願いだから、見えるんだよ」
「願い……?」
言葉をなぞるように声にすると、うん、と彼が頷く。
そのまま額を私のそれに寄せると、唇が触れそうな距離で、カラメル色の苦くなってしまった甘い声を発した。
「実莉、俺はね。
過去の俺と君を、別れさせるために来たんだ」