未来の君のために、この恋に終止符を。
それでもそんなふうに取り繕っても、お母さんには通用しない。
戸惑いながらも顔を歪めて、眉を下げて笑う。
「そういうことははやく言いなさい」
迷惑だといった言葉とは裏腹に、とても嬉しそうな様子だ。
そんなお母さんを見たのは久しぶりで、やっぱり私は反応に困った。
席を立つお母さんの後ろをさっきまでの晴樹のようについて歩く。
1列に並んで進む姿はなんだか少し変だ。
「確か、タンスの上にお母さんの若い頃の浴衣があるはずなのよね……」
踏み台を持って来て、箱を下ろすお母さんの隣で、なにもできることのない私は立ち尽くす。
ほら、これ! と広げた柄を私に見せてくれる。
「この朝顔なら流行りもないし、今の実莉にもいいんじゃない?」
「そうなの?」
「そうよ。実莉ももう高校生だし、少し大人っぽいものも似合うわ」
生き生きと私の身体に浴衣を当て、満足げに頷いている。
「じゃあ、それにする」
「うん、それがいいわね」
帯や下駄を用意してくれながら、静かな霧雨のように私に問いかける。
「晴樹と行くの?」
幼い頃はどちらかの親がいたけど、私と晴樹が花火大会に行くのは恒例のこと。
間を埋めるために投げた質問だったんだろうけど、
「晴樹もいるけど、……今年は、友だちと」
いつもとは違う。