未来の君のために、この恋に終止符を。




戻れない日々に思いを馳せていて、私は周りに意識が向いていなかったらしい。

「そろそろ移動するぞ」と安藤くんに短く声をかけられ、あとを追おうとした直後にかき氷をこぼしてしまった。



「あ……」



べしゃりと情けない音を立てて落ちた黄色い氷の山。

あっという間に溶けて、じわじわと広がり、アスファルトに染みていく。

あまりにも呆気ない様子に動揺してしまう。



「大丈夫?」



前を歩いていたはずの晴樹は、すぐさま気がついてわたしのそばに駆け寄ってくれる。

浴衣が濡れていないかと確認し、汚れていないとわかって頬を緩めた。



「汚れなくてよかった。
せっかく……似合ってるんだし、ね」



少しためらいがちにそう小さく呟いて、晴樹は私の目をしっかりと見つめて笑った。



ああ、なんだ。

浴衣姿の私を煩わしく思っているんじゃないか、なんて勘違いだったんだ。



だって、言葉が、仕草が、態度が。

うそじゃないとわかる。



恥ずかしそうな表情は可愛くて、胸がぎゅっと握り締められたように息が苦しい。

こんなにも苦しくて、苦しくて、それなのに幸せだなんて、変な気分だ。






< 141 / 214 >

この作品をシェア

pagetop