未来の君のために、この恋に終止符を。
目の前で髪がふわりと泳ぎ、向かいにいた彼が私の隣に座りなおす。
思わずその動きに視線を奪われていると、額が触れあいそうな距離になり、心臓が素直に跳ねる。
押さえつけたいような、かきむしりたいような、ざわめく心をなんとか堪えた。
「実莉が数学の問題がわからないなんて、珍しいね」
「そう、だね」
一応私が理系科目、晴樹が文系科目を得意としているから、私が数学の質問をすることは少ない。
得意科目でなくても、もちろん晴樹ならどちらも問題なくこなしてしまう。
だから彼は「そんな時もあるよな」と自然にフォローを入れたあと、腰を据えて問題の解説をはじめた。
男らしい手には華奢に見えるシャーペンがすらすらと式を作りあげていく。
右肩あがりの字が並んだ。
順調に問題を解いていた晴樹を、私の勉強に付き合わせてしまうことに罪悪感を感じ、いつもなら胸の奥が石を詰めたように重たくなる。
だけど、今日は……。
わずかに上半身をひねり、背にあるベットへと視線を向ける。
品のあるパンツに、夏らしい麻シャツ姿。
長い足を曲げてベッドに片膝を立てるように座りこんでいるだけだというのに、やけに美しく絵になる。
私の周りにはいないような大人っぽい彼は、昨日から私の家にいる未来から来たらしい男────自称・未来の晴樹だ。