未来の君のために、この恋に終止符を。
考えごとをしていたせいで、周りに意識を向けられずにいた私はなにも考えずに道の角を曲がった。
そこは車の通りが多くて、何度も事故に遭う人がいると知っていたし、いつもなら警戒していた。
それなのに。
気づけばすぐ近くには迫り来るトラック。
ブレーキの影響でアスファルトとタイヤは摩擦から音を立てているんだろうと思いながらも、世界は異様なまでに静かだ。
危ない、とわかっているのに動くことはできない。
焦ることも、無心になることもなく、だけど黙ってそれを受け入れる体勢になってしまった時、
「実莉!」
私の名前を呼ぶ、晴樹の声が心を突き刺した。
好きな人というのはすごい。
こんなにも非日常で、はじめて体験する状況でも、声を届ける。
それどころかそれ以上で、心をどうしようもなく揺らした。
場違いにも、好きだという気持ちが私の胸に広がっていった。
だけど、もう遅い。
名前を呼ばれても、応えることはできないし、なにかを告げる余裕はない。
そうわかっていたから、せめてと唇で弧を描いた。
その瞬間、強い風が私の背を押す。
道路の端に転がった私が振り返ったそこには、未来の晴樹が立っていた。
さっきまで私がいた場所にいる彼は、ほっとしたように口元を緩める。
そして逃げる様子もなくその場で、私と視線をあわせた。
強い風の音が耳元で吹いて、目の前で晴樹とトラックが重なった。