未来の君のために、この恋に終止符を。
最終章
もしものあの日を、目の前に
セミが鳴き喚く。
ここにいると、ここで生きていると、必死で。
それを耳にしながら、気にかける余裕なんてない俺はスーツを着こんだ状態で駅に向かって歩いていた。
太陽の光と火傷しそうなほど熱をはらんだアスファルトに挟まれて、逃げ場はない。
黙々と日々をこなすだけで精一杯なんだ。
水村 晴樹、22歳。
仕事は塾講師。
担当科目は英語だけど、範囲によっては他の科目も対応できる。
今年の春に今の塾に就職した俺にはひとつ、人には言えない関係の人がいる。
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歩きながらの電話姿は生徒たちに見せられないな、と思いつつスマホで電話をかける。
繋がった瞬間に、反射のようにきゅうと心臓が絞られた。
「ごめん、実莉。今日会いに行けなくなった」
電話越しに頭を下げる勢いで謝ると、ため息に近い吐息がわずかに聞こえる。
それに胸が痛みつつ、どうしたものだろうかと眉を寄せる。
「本当、ごめん。
模試対策の授業が入ったの、すっかり忘れてて……」
塾講師は、学校の教師よりは忙しくない。
だけど毎日授業はあるし、学校以上に勉強について求められて、なかなか大変な仕事なんだ。