未来の君のために、この恋に終止符を。
俺と実莉が付き合いはじめたのは、中学2年生の時。
この夏で、9年になる。
元々、俺たちは幼馴染だったから、そばにいた年数はもっと長い。
だけど、この交際のきっかけは幸せなものじゃない。
俺が原因で消えない傷を負った彼女の願いが、俺と付き合うことだと言ったから。
実莉のためにと言いわけしていたけど、彼女が本気で求めたわけではないと知っていた。
俺が無理やりはじめた、純粋な関係ではない恋人なんだ。
「別に、いい。晴樹がいなくても平気だし」
「……そっか」
無気力で、表情に色はなくて、だけど優しい実莉。
俺と付き合うようになって、俺を好きになってくれる女子と関係をこじらせてからは笑わなくなってしまった彼女はいつもこんな感じ。
俺との関係も、幼馴染としての想いだけが繋いでいるんだろう。
償いの意味もあるけど、なにより俺が彼女のそばにいたいと思う。
だからこうして会う約束だってするし、電話だってするし、料理が苦手な実莉のためにご飯に連れ出したりおかずをわけたりしている。
でも、実莉は俺のことなんて好きじゃない。
「なんか、ごめんね」
「……」
「電車来たから、切るね。また連絡する」
「うん」
返事までしっかり確認して、スマホの画面に浮かびあがる終了ボタンを押した。