未来の君のために、この恋に終止符を。
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女性のひとり暮らしに適した、高セキュリティのマンションのエレベーターで3階に上がる。
廊下を歩いて、目的の部屋に向かった。
「いらっしゃい」
「うん。お邪魔します」
玄関で出迎えてくれた実莉ににこりと微笑みかけた。
あのまましばらく会えない日々が続いたけど、なんとか仕事を落ち着かせて、今日は久しぶりに家デート。
なにをするともなく共に過ごして、晩ご飯を一緒に食べて帰るんだろう。
自分の部屋と違ってクーラーの効いた彼女の部屋に入る。
涼しい空間に目を細めて、ああ実莉の部屋だと思った。
「お茶飲む?」
「いや、いいよ。俺がするから」
気を遣ってくれる彼女に首を横に振る。
実莉の実家では、キッチンを知り尽くしていた俺だ。
今度はこの部屋でも、なんて少しばかなことを思う。
それでも、そんなふうにしても、実莉自身のことを俺はわかっていないんだから、結局は無駄なんだよね。
虚しいな、と心にクーラーよりも冷え切った風が吹きこんだ。
「でも……」
さすがに申し訳ないから、と実莉が口にした瞬間、彼女のスマホの着信音がその場に鳴り響く。
学生時代から変わっていないその音は、電話の音だ。