未来の君のために、この恋に終止符を。
「ごめん」
そう言って寝室の方へと移動しながら、実莉は電話に出た。
彼女に電話をする相手なんて今までなら俺と家族くらいしかいなかったのに、いったい誰なのかな。
対応する声がかすかに聞こえて気になりつつも、なんとか意識をそらして、俺はクリーム色のケトルで湯を沸かす。
真新しい綺麗なキッチンだ。
実莉はひとり暮らしをはじめてからも、やっぱりそこまで料理はしていないんだろうね。
心配性なおじさんおばさんが援助した、このマンションの綺麗な設備はそのままのように見える。
生活について気にかかりながらも、俺にできることがあると感じてほっとしてしまう。
そんな自分が最低だと少し落ちこんだ。
……実莉には、知られたくない。
俺がこんなにもわがままで、身勝手なことには。
そうやって俺がひとり、憂鬱な気分になっている時も、隣の部屋からは会話が続いているみたい。
声がもれていて、思わず耳を傾けてしまう。
対応の仕方や言葉の選び方、些細な違いから相手が男性だとわかる。
わかってしまう。
どういう関係かと不安に思っていると、実莉はぽつりとその場に言葉を落とした。
浸水するようにそれはキッチンにまで染み渡り、部屋中を濡らしていくようだ。
「ご飯……ですか」
淡々とした、いつもと同じトーンで聞こえた予想外の言葉に息をのむ。
ランチか、ディナーか。
なにか知らないけど、そんな話題を口にするなんて、どういう状況なんだろう。