未来の君のために、この恋に終止符を。
第1章
知らないのに、知っている
「あっつー……」
私の隣で漏れた言葉をあらわすように、パタパタとシャツの中に風を送りこんで眉を寄せている。
彼は眩しそうに目を細めて太陽を見上げた。
そのまま手でわずかに私を扇ぐ。
「実莉、しんどくない?」
「別に、なんともないけど」
「長袖だと暑いだろうし、気持ち悪くなったらすぐに言いな」
グレーのチェックのプリーツスカート。
襟にチェックのパイピングが入ったセーラー服には同じくチェックのリボン。
いまだ合服のままのそれが汗で肌に貼りついている。
まだ熱い紅茶に入れた砂糖のように、じわりと溶けるような彼の笑み。
口に含むことができたなら、確かに溶けていたと安心するのか。それとも、ざり、と口の中で残っていた砂糖の存在に甘みを苦く感じるのかな。
そんなふうに考えてしまうような表情だと考える自分が、歪んでいると思った。
だけどそんな様子はちらとも見せず、長袖姿の私を気づかう彼の言葉に黙ったままこくりと頷く。
私とは違う半袖のシャツから伸びた腕が目についた。
元々白くはないそれを、太陽がさらに焦がしていく。
私のことを気づかってくれる彼は、水村 晴樹(みずむら はるき)。
私────花沢 実莉(はなざわ みのり)の幼馴染兼彼氏だ。