未来の君のために、この恋に終止符を。




ころりと転がるそれを見て、晴樹は私の隣から立ち上がる。

元々いた向かいに戻るのかと思いきや、そのまま彼は扉へ向かい「おばさんから飲みものでももらって来る」などと言う。



「それなら私が行く」

「いいよ、実莉は勉強頑張って疲れてるんだから休憩してて?
おばさんなら俺が行っても気にしないだろうし」



私の答えを聞くこともなく、晴樹はするりと部屋を出てしまう。

ぱたんと音を立てて閉まった扉に向かって伸ばした指先に気づかれることはなかった。



ぽとりと熟れすぎた果物のように、手を床に落とす。

その上に薄くため息を重ねた。



確かに晴樹の言うとおり、うちのお母さんなら私じゃなくて晴樹が……それどころか他の誰が来ようとも、特に気にとめたりしないだろう。

ふんわりとなんでも受け入れる、そういう雰囲気があるんだ。



だけど、そうじゃない。

私が気にしているのは、そんなことじゃない。



「……優しくしないで」



優しくされればされるほど、辛いんだ。

彼が気を遣う存在でありたくないのに、それは避けられないんだと実感する。

対等に彼の隣に立ちたかったけど不可能になってしまったし、これ以上なにかをしでかして、失うかもしれないなんて受け入れられない。



こんなふうに曖昧で、甘えているから。

私は、私がいやになる。






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