未来の君のために、この恋に終止符を。
互いにもう、わかっていた。
この不思議な状況は……未来の晴樹がここにいることは、終わりが近いと。
未来の晴樹がどこに行くのかは、私に託される。
そんなどこか秋風のようにしんみりとした空気に覆われそうになった時、晴樹が重々しくない声色で私の名前を呼んだ。
だけど軽くもないそれに、ぴくりと私の肩が跳ねた。
「最後にひとつお願い」
「なに」
「目をつむって欲しいんだ」
どういう意味か、と首を傾げて実際に問いかける。
だけどはっきりとした答えは得られず、不思議に思いつつも晴樹の言葉だからと素直にまぶたを下ろした。
きっと悪いようにはしないはずだ。
完全な闇の中、息づかいが耳をくすぐって、かすかになにかが額に触れた。
驚きからまぶたを上げる。
やけに近い距離にある晴樹の綺麗な顔におののき、今のはなんだったんだろうと周りを見回した。
「唇は7年後まで、ちゃんと守っておいてね」
その言葉に、思わず額を掌で押さえる。
唇を震わせて、声を失う私に晴樹は突然キスをした人とは思えないほど当然といった態度だ。
そのくせさみしそうに目を細めるから、恥ずかしさをぶつけるより先に、ひとつ頷いて了承した。