未来の君のために、この恋に終止符を。
「おはよう」
短く言葉を返し、体の向きを正面に戻す。
1限目の試験は現代文だし、ノートと漢字を確認しておこう。
そうしていると、口に出すのをはばかられたかのように言葉のつまった声。
それでも、そっとうかがうように、1歩近づき隣に立った彼女が呟く。
「晴樹の周りに女の子いるけど、花沢さんは大丈夫? 辛くない?」
ちらりと彼女へ視線をやると、……ああ、もう、なんなんだいったい。
穏やかで誰もいない湖のように、澄んだ瞳。
そこに映る、汚れた私。
気まずくなり視線を机の上に戻すと、片岡さんは晴樹の方に顔を向ける。
さっきまでと変わらない、その瞳に今度は彼を映しているんだろうか。
「今は崇人がいるけど、やっぱり女の子もたくさん集まってくるもんね。花沢さん、無理してるんじゃない?」
崇人、というのは高校に入ってできた晴樹の友だち────安藤 崇人(あんどう たかと)くんのこと。
晴樹が1番時間を共にしている男の子で、ずいぶん気が合うようだ。
私は話したことはないけど、結構思ったことをなんでも言うらしく、晴樹の周りの女の子の中には苦手だと思っている人が少なくないらしい。
今だって、彼女の言葉に誘われるように盗み見てみると、晴樹の1番近くにいるのは安藤くん。
女の子の人数も少し減ったように思う。
それでもまだ、何人もその場に残っているんだけど。