未来の君のために、この恋に終止符を。
「実莉、そろそろ移動しないと」
突然、頭上から声が降ってくる。
花びらが風に乗ってやって来たかのようなふんわりと優しいそれに、驚いて顔を上げた。
「次はレベル別の英語だよね?
俺たちは教室移動だよ」
「あー、うん」
慌てて荷物をまとめる。
いつもなら他の人と移動しているはずなのに、ちっとも動きそうにない私を見て声をかけてくれたんだろう。
晴樹は本当によく気がつく。
机の上に乗ったままの筆記具を仕舞ってくれて、そのまま私の鞄と共に彼が持っている。
立ち上がった私は黙ってそれらを受け取った。
廊下に足を向けつつ、彼はさっきまでの試験内容のことなどを話題にあげ、私相手だというのに沈黙は落ちない。
だけど、晴樹がこんなにも気を遣って盛り上げてくれているというのに、私にはうまく相槌を打つことさえ難しい。
晴樹の周りの女の子たちのことに片岡さんの言葉、そういったものがいつも以上に私を苦しめる。
頭の中を駆け巡り、ソフトクリームのようにどろどろに溶けだしてしまいそう。
だけど本当は、そんなことが、誰かが原因なわけじゃない。
私の恋が、私たちの関係が、歪んだまま進んでいくから。
だから私は、晴樹の隣を手放さないくせに、ただ苦しんでいる。