未来の君のために、この恋に終止符を。
「ねぇ、実莉」
なに、とさらに視線を鋭くしかけて……違う。
今、私の名前を呼んだのは、未来の晴樹じゃなくて、現在の晴樹。
15年と少し、私の隣にいた彼だ。
「明日で試験終わるよね。
そのあと一緒に映画でも観に行かない?」
扉に手をかけたまま振り向いた彼の頬は、わずかに赤い気がする。
寝ている間のためにつけていたクーラーのおかげで部屋は涼しいはずなのに、温度が上がったんじゃないだろうか。
どくりと血の巡りを感じ、ぎゅっと長袖の寝間着の上から左腕を掴んだ。
これは、よくあること。
いつもひとりでいる私を連れ出してくれるのは、家族と晴樹くらい。
だから誘われた。
でも、私たちは仮にも恋人だから、これはデートだから、
「うん」
ほんの少しくらい浮かれてしまうことを、許して欲しい。
誰にともなく許しを乞い、表情は変えずにこくりと頷く。
そうすれば晴樹はよかった、と肩の力を抜いた。
「じゃあ今度こそ先に降りてるね!」
夏の香りが満ちるような、空気を爽やかなものに変えて、彼は扉の向こうに消えた。
その背を見送り、私ははあっと熱のこもった息を吐き出した。
そしてはたと部屋にいまだ残っている存在に視線をとめた。
「ちょっと、はやく部屋から出てよ」
そんな言葉を投げつけた先には、唇を噛み締めてうつむく未来の晴樹がいた。