未来の君のために、この恋に終止符を。
信じられない、だけど現実
「あ、可愛い」
ぽつり、と咄嗟にこぼれた言葉に自分でも驚いて、口元を押さえる。
隣にいた晴樹が「ん?」と私の視線の先をたどった。
試験最終日の今日は3限目で無事終了。
赤点を取るほど悪い成績のものはなさそうで少し安心する。
全ての試験が終わったことで、私たちは約束どおり駅前の映画館が入っているショッピングモールに来ていた。
ふたりそろってお昼を食べて、映画の時間までの暇つぶしに本屋さんや雑貨屋さんを冷やかしていたんだ。
私たちには不釣り合いなくらいデートらしいデートで、私は普段こういう店で声を出してはしゃぐことなんてない。
だから、小さな声だったのに、晴樹も反応してしまったんだろう。
「ブックマーカー?」
「うん」
それは、背表紙でチャームが揺れるデザインになっていて、シンプルな美しさがある。
オレンジを基調とした色合いが優しく、あたたかな光のようで、自然といいなと思った。
だってなんだか、晴樹みたいだ。
「買うの?」
「……ううん、いい」
晴樹が私の顔を覗きこんで尋ねた言葉に、私は首を横に振った。
たとえ一瞬でも晴樹みたいだと思ってしまったせい。
私が手に入れることは許されないような気がするんだ。
そんなのばからしいことかもしれないけど、1度そう考えてしまうと、私にはもう手を伸ばすことはできない。
これ以上欲張ることはできないと、思う。