未来の君のために、この恋に終止符を。
「飲みものいるよね?
買う前に、座席取ろっか」
いつもより低くて静かな声が耳元で響く。
その感覚がこそばゆくて、わずかに肩が跳ねた。
それを誤魔化すように首を縦に振ろうとすると、
「あーっ、晴樹見っけー!」
空間を切り裂くような、よく通る声が届いた。
呼ばれたのは、私の彼氏。
呼んだのは、彼のことが好きな女の子────立川さんだ。
未来の晴樹の言葉どおりに彼女がこの場に訪れたことで、心臓がどくんと大きな音を立てる。
心が宵闇の中の木々のようにざわめく。
こくりと唾を飲みこんで、言葉なく胸を押さえた。
立川さんは、今日も丁寧に巻かれた髪を揺らして、満面の笑みを浮かべている。
子どものように無邪気に駆けて、晴樹にぎゅっと抱き着いた。
「絶対会えると思ってたー!
晴樹、今日花沢さんと映画だって言ってたもんね!」
「おいこら、なに勝手に来てるんだよ」
彼女の腕から逃れようとしつつ、晴樹が文句をひとつ。
だけどそれさえも彼女は気にとめず、楽しげだ。
「ちゃんとあたしも映画観に来たんだから、晴樹の意見なんて知りませーん」
「え? ひとり?」
「そんなさみしい人みたいなことしないよ」
むぅっと頬を膨らませて、そこに色づいた華やかな薄紅色が際立つ。
その色が目について、突き刺さるような気がする。