未来の君のために、この恋に終止符を。
「おーい、菜津。
俺に失礼だよね、それ」
「えー、そんなことないって!」
むっとした顔を作ってはいるけど、晴樹は本気で怒っているわけではない。
ただの冗談で、言葉の応酬を楽しんでいる。
私には普段見せない顔を近距離で見つめることになり、私はただ黙りこむだけ。
「花沢さんには女の子の話し相手が必要だと思うし、はい! 決定! 座席指定しに行こう」
かなり強引な話の持っていき方だというのに、どの言葉に反応したのか、晴樹が思案する表情になる。
あごに指先で触れ、少し悩んでいる。
「女の話し相手か……」
ああ、そっか。そうなんだ。
だから晴樹は急に立川さんの話を真剣に聞きはじめたんだ。
中学在学中には友だちと疎遠になり、今でも関係が続いている人なんてひとりもいない。
家族とも距離が遠く、昔ほど仲がいいとは言えないのに、そんな晴樹が誰よりそばにいる人で。
だから彼が心配しているのはおかしなことじゃない。
だけどそんな気遣い、私からすれば余計なものだ。
私が自分で望んだ周りの人との距離で、関係。
晴樹が気にすることなんてなにひとつない。
「よし、わかった。
ただし映画の間だけにしよう。
実莉もそれでいい?」
無駄な配慮に吐き気がする、と思いつつも、結局のところ私は自分の気持ちを伝えてる努力をしない。できない。
「……晴樹がそうしたいなら、すればいい」
投げやりな言葉をその場に落とした。
やったぁ! と立川さんがはしゃいでみせた。