未来の君のために、この恋に終止符を。
自分の無責任な、想いなんて少しもこめられていない言葉が胸に突き刺さる。
唇をきゅっと噛み締めて、視線を落とした。
私のそんな姿を見て、きっと彼はまた困ってしまっているんだろう。
わかっていながら顔をあげることはできず、そのままただ足を機械的に動かしていた。
「じゃあ……」
足元でさえも見慣れた景色をしばらく進み、晴樹の声にぴたりと立ちどまる。
そこには【花沢】と私の家の表札。
そばを素早くすり抜けて、彼に対してなんの言葉もかけずに扉を閉め、外の世界を遮断した。
外のむっとした気温でじんわりと汗の浮かんだ頬が家の冷房の効いた空気にかすかに緩む。
ずっと音もなく、静かに雫が首筋を伝った。
「ただいま」
ぼそりと呟いて、廊下をぺたぺたと歩く。
声は小さかったはずなのに、扉の音を聞きつけたのか、リビングからお母さんが顔を出す。
「おかえり、実莉。暑かったでしょう?」
過保護なお母さんは、可愛げのない私とは少しも似ていない。
ふんわりと柔らかな髪を揺らし、冷たいものでも出そうかと訊いてくれる。
確かに欲しいなと思ったけど、リビングに行って私は……。
私は、お母さんとなにを話せばいいというの。